多汗症の原因は体質だけではない! 原因別の対策方法
YATA
みなさんは日頃から自身の汗の量を意識することはあるでしょうか。人間にとって汗をかくことはごく当たり前のことで、汗をかくことによって体温調整をしたり、皮膚に潤いを与える、さらには体内の過剰な塩分を排出するなどの重要な役割があります。
しかし、何かしらの原因によって全身や局所的に大量の汗をかくことがあります。このような症状は総称として「多汗症」と呼び、ひとつの疾患(病気)として扱われています。さらに、多汗症であることを認識していない人も多く、実は多汗症は身近な疾患であることもあまり知られていないようです。
そこで今回は、多汗症についてそれらの種類や原因、そして種類別の予防法まで詳しく解説します。
多汗症とは
多汗症とは全身または局所で汗の分泌が過剰に起きる症状のことを指します。多汗症は局所性多汗症と全身性多汗症のふたつに大きく分類され、いずれも特に原因がない原発性、感染症や精神疾患など様々な要因がきっかけになり発症するとされています。厚生労働省の調査では日本人の7人にひとりが多汗症の傾向があり、重症者はおおよそ80万人いるとしています。
一般的に精神的なストレスを受けた際になりやすいと言われているものの、精神疾患を抱えている人のすべてが発症する訳ではないため、原因は人それぞれであることも特徴です。また、女性においては妊娠や出産、月経の周期、さらに更年期などホルモンバランスが崩れることで発症する場合もあります。
汗をかくことそのものは問題ありませんが、多汗症の場合は汗が過剰になるため、対人関係、会話に集中できない、衣服への影響、周囲からの目、自身への精神的な苦痛に繋がりやすく、潜在的に悩みを抱えている人が多いのが実情と言われています。
局所性多汗症
多汗症は全身性多汗症と局所性多汗症に分類されますが、90パーセント以上は局所性多汗症に分類されます。局所性多汗症とは、手の平、足の裏、腋下など体の一部分から大量に汗がでる症状のことを指します。明確な原因は特定されておらず、何が原因で発症したかが分からない「原発性局所性多汗症」がほとんどとされています。
自律神経の調整がうまくいかなかったり、発汗を促す交感神経が過敏になることが要因とされている一方で、同様の多汗症の疑いがある親族を持つ傾向(家族内発症)があることから、多汗症は遺伝の可能性も否定できないとされています。しかし、現代の遺伝子分析では多汗症の遺伝を立証する証拠は認められていません。
全身性多汗症
全身性多汗症は背中や腹部、脚など全身にわたって汗が過剰な状態になることを指します。局所性多汗症に対して発症比率は少なく、多汗症患者の10パーセント程度とされています。低血糖や甲状腺機能亢進症、更年期、感染症、薬物乱用など、原因が特定されやすいことが多く、原因が分かる症状は「続発性全身性多汗症」と呼ばれます。
このように多汗症には局所性多汗症と全身性多汗症のふたつがあり、さらに原因が明確であるか否かによって原発性または続発性に区分されます。ただし、多汗症の90パーセント以上は「原発性局所性多汗症」に該当することがほとんどです。
多汗症の原因
多汗症には様々な原因があります。いわゆる「体質」という単純な原因ではまとめられないほど多様で、そのほとんどにおいて原因が特定できないことも多汗症の特徴と言えます。そのため、症状や生活習慣などを基にして、考えられる原因を絞り込むことが一般的です。
精神的要因
多汗症の原因として最も考えられる原因がストレス、緊張や不安などによる精神的な負担です。また、これらの環境下に身をおくことで、汗をかいてしまうという恐怖を感じることから、別名で「発汗恐怖症」とも呼ばれています。
人間はストレスや緊張を感じると交感神経が活発になり、汗腺が刺激されて汗をかきます。とくに多汗症の人においては、全身または局所的に過剰に汗が出てしまう状態になります。精神的な負荷が発生する状況で交感神経が活発になる仕組みは個人差もあり、原因が特定しづらいとされています。
疾患性要因
多汗症は何かしらの疾患が影響して発症する場合もあります。なかでも関係性が強いとされているのは甲状腺機能亢進症や更年期障害、感染症などです。
・甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症は、甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンが過剰になる疾患で、身体に必要なエネルギーの調整がうまくいかなくなる症状です。甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで全身の臓器が過剰なまでに活発になってしまい、身体的にも精神的にも疲弊するなどの影響が及びます。その影響のひとつに多汗症が含まれます。
・更年期障害
女性は30歳から40歳頃にかけて、女性ホルモンのひとつであるエストロゲンが減少することで自律神経が不安定になる傾向があります。自律神経の乱れによって多汗症が引き起こされると言われています。
・低血糖
血糖値が70mg/dL(ミリグラム パー デシリットル)以下になると交感神経が活発になり、手の震えや顔面蒼白などの症状が起こります。また、俗に言う「冷や汗」を招くこともあり、多汗症は低血糖はの兆候のひとつとされています。
・感染症
ウイルスなどの侵入によって、身体の防御反応のひとつとして汗を大量にかくことがあります。発熱や倦怠感などを伴うことが多く、そのほとんどは一時的な症状ではあるものの、全身性多汗症を誘発します。
・悪性リンパ腫
血液細胞の癌である悪性リンパ腫を発症することでも多汗症のような症状が出るとされています。とくに、就寝中の汗が増加することが多く、多汗症との結びつきが強いと言われています。
食生活要因
多汗症は食生活とも関係が深いとされています。なかでも、辛いものや熱いものを食べ過ぎると「味覚性多汗症」と呼ばれる症状を誘発する可能性があります。また、タバコやコーヒーのように中枢神経を刺激するニコチンやカフェインの過剰摂取も多汗症を招きやすいと言われています。
原因別の対策法
多汗症は発症原因が多岐にわたるため、原因となる要素そのものを排除することは困難とされています。そのため、現代の治療では過度な発汗の症状を和らげることが主流です。
多汗症診療ガイドライン
日本皮膚科学会は2010年に多汗症における標準治療の目安を定めた診療ガイドラインを制定しました。2015年には改定され、ほとんどの医療機関で多汗症治療の際にはこの「原発性局所多汗症診療ガイドライン 2015 年改訂版」に沿った診療が実施されています。
このガイドラインでは多汗症の症状を、手の平、足の裏、腋下、頭部・顔面の4つに分類し、それぞれで推奨する治療法を定めています。
・手の平
手の平における多汗症には、塩化アルミニウムの外用薬を使用する、またはイオントフォレーシスと呼ばれる弱い電流を使った治療法が推奨されています。症状の改善が見られない場合は、神経伝達を阻害する効果があるA型ボツリヌス菌毒素(流通名ではボトックスなど)などの注射を用いることもあります。
・足の裏
足の裏の多汗症には手の平と同様で塩化アルミニウム外用薬かイオントフォレーシス、またはA型ボツリヌス菌毒素の注射が推奨されています。
・腋下
腋下の多汗症は塩化アルミニウム外用薬が有効でないと判断された場合、ボツリヌス菌毒素注射を実施することがほとんどです。欧米では腋下の多汗症治療は、ボツリヌス菌毒素注射が主流ですが、日本国内では保険適用外です。
・頭部・顔面
頭部や顔面の多汗症には塩化アルミニウム外用薬、または抗コリン薬などの内服薬が推奨されています。効果が認められない場合は、A型ボツリヌス菌毒素注射が用いられます。
このように多汗症の治療は発症部位によって多少の違いはあるものの、基本的な方針としては外用薬や内服薬の活用、そしてA型ボツリヌス菌毒素注射が標準化されています。重症の場合はETS(Endoscopic Thoracic Sympathectomy)と呼ばれる胸腔鏡下胸部交感神経遮断術を実施する選択肢もあります。
多汗症の予防法
多汗症は発症原因が幅広いことから特定の予防法が確立されているわけではありません。しかしながら、過剰な発汗は交感神経の働きと関係しているため、交感神経が過度に働かない環境作りが有効と言えます。
ストレス解消
日頃からストレスを解消することを心がけることが大切です。飲酒や喫煙を通じてストレス解消するよりも1日に30分程度の運動など、積極的に体を動かす時間を作りましょう。心身共にリラックスできる時間を設けることがポイントです。
十分な睡眠
睡眠時間が不足すると交感神経が過敏になり発汗が促進されやすくなります。1日7時間以上の睡眠を心がけて、心身のリラックスを図りましょう。週末の「寝だめ」は効果が薄く、規則正しい睡眠生活が理想的です。
食生活
辛いものや熱いものを過剰に取ることは多汗症を招く可能性があります。これらの刺激物は出来るだけ控えるようにしたほうが良いでしょう。また、ニコチンやカフェインの大量摂取も交感神経を刺激するので注意してください。
まとめ
多汗症は人によって発生部位や症状が異なるため、明確な原因を特定することは難しいとされています。また、多汗症が潜在的な疾患の兆候の可能性もあるため、症状が長引く場合は早めに医師による診断をもらうようにしてください。一方で、多汗症の治療法は外用薬や電気治療、注射、外科治療など様々な方法があるため完治も可能であることを知っておくと良いでしょう。
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