肝斑治療で使われるトラネキサム酸が効くシミと効かないシミの種類
YATA
30代~40代の女性によくみられる「肝斑(かんぱん)」。頬や目の下に左右対称に現れる薄茶色のぼやっとしたシミで、他のシミと違ってレーザーによる治療では悪化することもあり、改善が難しいとされていました。
そんな肝斑を改善する効果がある成分として知られているのがトラネキサム酸です。医療機関でも、トラネキサム酸は肝斑治療の第一選択としての地位が確立されており、トラネキサム酸配合の内服薬や基礎化粧品も市販されています。
そこで今回の記事では、実際にトラネキサム酸で肝斑が改善するのか、また他のシミにも効果があるのかについて解説します。
シミの種類のひとつである肝斑(かんぱん)とは?
シミには、紫外線の影響によって発生する老人性色素斑(日光黒子)や、今回のテーマである肝斑、そばかす、炎症後色素沈着やADM(後天性真皮メラノサイトーシス)、脂漏性角化症などさまざまな種類があります。
肝斑は、成人以降、主に30~40代の女性に出現することの多い、シミの一種です。境界がはっきりしないぼやっとした淡い茶色のシミで、両頬や目の下、口の周り、おでこなどに多くは左右対称に現れますが、稀に非対称のこともあります。
この症状が見られるのは、おおよそ50代後半までで、60代以降で発症することはほとんどなく、むしろ自然と薄くなったり、消滅することが知られています。すぐに肝斑とわかる典型的なものから、専門医でも慎重な診断が必要になる不明瞭なものまで、肝斑の症状は幅広いのが特徴です。
肝斑の原因とその発生メカニズム
肝斑の原因については、妊娠や出産、経口避妊薬(ピル)の服用、紫外線の影響や、メイクやスキンケア時の摩擦、肌に買わない化粧品、遺伝的要因など、たくさんの原因が報告されていますが、詳しいことはまだ十分には解明されていません。
女性に多いこと、妊娠・出産をきっかけに出現することが多いこと、閉経後に消退することなどから、女性ホルモンの影響を強く受けていることが推察されています。ホルモンバランスは、過度なストレスや睡眠不足、不規則な生活習慣によってもバランスが崩れます。こうしたホルモンバランスの乱れも、肝斑の発生や悪化の要因と考えられています。また紫外線の強くなる夏の時期なると濃くなり冬になると薄くなるといった色調変化を訴える方もいますし、紫外線に当たらなくても発生します。
肝斑発生の具体的なメカニズムは、次のように考えられています。
まず、紫外線やホルモンなど何らかの要因が刺激となって、プラスミンというメラノサイトを活性化させる物質が作られます。このプラスミンの影響によってメラノサイトが活性化し、メラニンを産生します。このメラニンの産生が慢性的に行われ、シミとなって現れているものが肝斑です。
メラノサイトが刺激される要因には、紫外線やホルモンの他にも、洗顔やマッサージといった、こするや触るなどのさまざまな物理的な刺激もあり、そして肝斑の発生や憎悪には、これらの要因が重複していると考えられています。
一般的なシミ治療では悪化することも
老人性色素斑やそばかすなど、他のシミの場合に当たり前に行われる医療用レーザーによる治療は、肝斑には禁忌とされていました。これは、レーザーの照射が刺激となり、メラノサイトが活発化することで肝斑によるシミが憎悪してしまうことがあったためです。
しかし最近では、レーザートーニングという低出力のレーザーを照射する治療法が、一部の医療機関で肝斑に対する治療として実施され、成果を上げています。ただし、まだまだ確立されたとまでは言えず、賛否両論があるのも事実です。
肝斑治療で使われるトラネキサム酸とは
トラネキサム酸は、人工的に作られたアミノ酸の一種で、1962年に日本人の研究者によって開発されました。トラネキサム酸には、先ほど肝斑の発生の原因のところでもお伝えした、プラスミンの働きを抑える作用があり、抗プラスミン薬としてさまざまな治療に利用されています。
プラスミンとトラネキサム酸の関係についてもう少し具体的にご説明しましょう。プラスミンには、凝固した血液を溶かす作用があります。トラネキサム酸には、この血液を溶かすというプラスミンの働きを抑える止血作用があり、手術時など各種出血を抑えるための止血剤や、重度月経の治療薬としても広く使われています。
また、プラスミンはアレルギー反応や炎症反応にも関係していますが、トラネキサム酸がプラスミンの働きを抑えるため、アレルギー症状や炎症をやわらげる効果もあります。こうした抗炎症作用や抗アレルギー作用から、トラネキサム酸はのどの腫れや口内炎、そして湿疹や蕁麻疹などの治療にも使われています。市販の風邪薬や、歯磨き粉(歯茎の腫れや出血を抑える)にも配合されることの多い、身近な成分です。
そして、蕁麻疹の治療にトラネキサム酸を使用していたところ、たまたま併発していた肝斑が改善したという報告が各地から届いたことから、肝斑の発生を抑える働きがあると考えられ、肝斑の治療にも使用されるようになりました。
トラネキサム酸の抗プラスミン効果により、紫外線やホルモンの刺激によるプラスミンの発生を抑え、メラノサイトが活性化するのを抑えているのではないかと考えられています。また、抗炎症効果により、乾燥肌や敏感肌の肌荒れによる赤みを落ち着かせる効果もあります。
トラネキサム酸を使った肝斑の代表的な治療法
トラネキサム酸を使った肝斑の代表的な治療法には、飲み薬の服用、クリームなどの塗り薬、そしてイオン導入があります。
顔には毛細血管が張り巡らさせており、血液の流れに乗って作用する内服薬は、肌のすみずみまで成分が届くため、高い効果を発揮すると考えられます。
飲み薬にはカプセルと錠剤があり、きちんと飲みさえすれば、通常1~4カ月で多くの人が効果を実感できます。その後も1年から1年半ほど内服を継続するケースや、肝斑が薄くなったら一旦中止し、また出現し始めたら服用を再開するという方法もあります。肝斑の状態や、医師の方針などによって服用法には違いがありますが、すぐに効果が現れるというよりも時間をかけて徐々に改善を促す治療法です。
トラネキサム酸配合のクリームを塗布する治療法は、肝斑への有効性を示す治療実績が増えており、試す価値のある治療法になってきています。
イオン導入は、通常は肌のバリア機能によって浸透しにくい有効成分を、電流の力でイオン化させることで、肌の深部にある真皮にまで浸透させる治療法です。トラネキサム酸を単純に皮膚に塗るよりも効果が高いとされており、飲み薬と併用することでより早期での改善が期待できます。
ちなみに、医療機関でのトラネキサム酸を使用した肝斑の治療は、保険適用外の自由診療です。
また、トラネキサム酸は、2007年には、一般用医薬品としても効能が認められ、OTC医薬品(*注)として薬局やドラッグストアでも販売されています。
*注)OTC医薬品とは、薬局・薬店・ドラッグストアなどで処方箋無しに購入できる一般大衆薬のことです。OTCは、Over The Counter:オーバー・ザ・カウンターの略で、カウンター越しに買える(=処方箋がいらない)ということに由来しています。
トラネキサム酸の注意点
トラネキサム酸は、これまで止血剤や抗炎症・抗アレルギー薬として使われていますが、目立った副作用はありません。ただし、血液を溶解する作用を抑えるため、理論的には血が固まって血管が詰まってしまう血栓症のリスクがあると言えます。そのため、脳血栓や心筋梗塞などの病気がある方への投与は慎重になる必要があります。
ただし、トラネキサム酸の使用により血栓症になったという報告は見当たりませんので、血栓による疾患のある人でなければ肝斑の治療に使用する分には、ほとんど問題はないと考えてよいでしょう。
その他の肝斑治療
トラネキサム酸の内服が、肝斑治療の第一の選択ですが、それと併用してビタミンCの服用や、ハイドロキノンの塗り薬を使用することがあります。ビタミンCには強力な抗酸化作用と美白作用があり、シミやくすみの改善薬として広く使われています。安全性が高く、トラネキサム酸と継続して併用することが可能です。
ハイドロキノンは、メラニン色素の生成を阻害する働きがあり、肝斑のシミを薄くする効果が期待できます。こうした他のお薬を併用する方法は、肝斑治療のスタンダードです。
また先ほどもお伝えした通り、最近ではレーザートーニング(またはレーザーフェイシャルなど)と呼ばれるレーザーによる肝斑治療も行われるようになってきました。レーザートーニングでは、医療用のレーザーを弱い出力で均一に肌に照射することで、メラノサイトを活性化させるような刺激を与えずに、蓄積したメラニンだけを少しずつ減らしていきます。通常、2~4週間おき間隔で、5回~10回以上照射を行うため、根気よく通い続ける必要があります。
レーザートーニングには、Qスイッチヤグレーザーやピコレーザーが使用されており、肝斑が大幅に改善されることも珍しくありません。
これまで飲み薬の服用であまり効果が出なかった人には、試す価値のある治療法です。もちろん効果には個人差があり、また治療には豊富な経験と技術が必要とされています。レーザーの出力が適切でないと、レーザーの刺激によって肝斑が悪化するリスクが常にある、繊細な治療法だと言えます。
他に、肝斑の治療にケミカルピーリングを取り入れているクリニックもあります。専用の薬剤を顔に塗布することで、メラニンの蓄積した角質だけを優しく取り除く治療法です。
トラネキサム酸は他のシミにも効く?
トラネキサム酸は、肝斑を改善する効果を認められた成分ですが、他のシミへの有効性についてはまだはっきりとはしていません。ドクターによっても見解に違いがあるのが現状です。
トラネキサム酸が主成分のOTC医薬品の場合、その効果は肝斑に限るとされ、他のシミへの効果については明記されていません。そして、肝斑以外のシミの改善を目的とした製品には、ビタミンCやL-システインといった他の美白成分が主成分として配合されています。
しかし、抗炎症作用のあるトラネキサム酸が、慢性的な微弱炎症によって血管が拡張することで起こる赤みなどを軽減する効果があることや、虫さされやニキビなどの炎症後に起こる色素沈着や、医療用レーザー照射後の炎症後色素沈着を抑える働きがあるという研究成果もあり、今後他のシミ治療への応用が期待されます。
肝斑と他のシミが併発している時
シミにはさまざまな種類がありますが、同時にいくつかのシミが併発していることも珍しくありません。特に肝斑の発生しやすい30~40代の女性は、紫外線の影響による老人性色素斑も徐々に現れ始めます。老人性色素斑はレーザーによる治療が有効ですが、肝斑と併発している場合は不用意なレーザー照射はできません。まずはトラネキサム酸を使用した治療を行い、肝斑が軽快してからレーザー照射による老人性色素斑の治療を行うのが一般的です。
最後に
トラネキサム酸の肝斑への有効性がわかって以来、それまで治療が難しかった肝斑も、改善が見込めるようになりました。今では、レーザーによる治療法も開発されつつあり、トラネキサム酸との併用で、さらに満足のいく治療が可能になっています。
また医療機関に行くのはちょっと気がひけるという方でも、ご自身にできてしまったシミが肝斑の特徴に沿っているようであれば、トラネキサム酸配合のOTC医薬品を試してみるという方法もあります。
ただし、冒頭でお伝えしたように、シミにはさまざまな種類があり、最適な治療法はシミのタイプによって異なります。市販の治療薬を飲んでも改善が見られなかったり、自分のシミの種類がわからない時には、一度皮膚科や美容皮膚科など専門の機関で相談されることをおすすめします。
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